秋の気配が急に強くなった10月20日(日)、千曲市の芝原公民館にて、芝原区・若宮区合同の人権教育研修会が開催されました。2024年度は、講師を千曲市羽尾の野本洋子さんと塚原佐久子さんにお願いし、テーマを「高齢者の人権について」として、姨捨山伝説の語りと琵琶演奏を取り上げました。(報告=さらしなルネサンス理事・芝原区代理区長 中村洋一)
千曲市に伝わる姨捨山の伝説は、さらしなの冠着山と強く結びついているお話で、一度は子が老母を山に捨てたものの耐え切れず連れ帰り、その老母の智慧で国が救われるという不幸ではない結末ですが、一定の年齢に達した老人を、社会に不要な存在あるいは厄介者として捨てる「棄老伝説」は、世界各地、様々な宗教で、事実として、また伝説として語り継がれてきたそうです。
野本さんは、絵本の読み聞かせなど語り部の活動に取り組み、塚原さんは家に伝わる琵琶の演奏をお師匠さんに学んで身につけ、野本さんとペアを組んで姨捨山伝説を伝えている方です。47名の参加者は、おふたりのお話と演奏に引き込まれていきました。野本さんによる「おらほの言葉」による姨捨山の伝説と、塚原さんの哀愁漂う琵琶の音に乗せて語られる、母親と息子のお互いを思いやる気持ちに、あらためて思うことの多い時間になりました。
「年寄りの智慧と若者の勇気がさらしなの里に平和をもたらした」という結びに、現代の社会の在り方、政治の在り方に、我々が反省すべきことが多くあることを感じました。「高齢者の人権」を思うとき、高齢者の該当者である自分のとるべき行動に、正直迷うこともあるのですが、すべての人権が尊重され、平和で安寧な社会を作っていくために、ひとりひとりが声をあげ、小さなことでも、少しずつでも、行動していくことが重要なのだと気持ちを新たにしました。
姨捨山伝説に続いて、塚原さんから、薩摩琵琶の歴史や演奏方法についての説明をうかがいました。そして、平家物語にある「祇園精舎の鐘の声」の一節をお聞かせいただきました。長い歴史の中で語り継がれてきた韻文や、弾き続けられてきた旋律は、理屈抜きに我々の心に響くものであることを再認識しました。
最後に、「耳なし芳一」のお話も演じていただきました。耳を引きちぎられてしまう芳一の話であるのに、聞こえてくる言葉が持つ力、奏でられる琵琶の音の大きなエネルギーを感じました。
人権教育の研修会には様々なアプローチがあるのかと思いますが、今回のように、伝統的なお話をうかがいながら、現代の課題に思いを馳せるのも、大変有意義なことだと思いました。
なお、野本さんと塚原さんによる「姨捨伝説の語りと琵琶演奏」は、次のページでも聞くことができます。クリックしてみてください。