ことし国宝に指定された「更級日記」(藤原定家書写)が、来年3月12日から5月12日まで皇居で展示されることになりました。
天皇家に伝わる美術工芸品を所蔵する三の丸尚蔵館が新築されたのを記念する展覧会で、写真は同館のホームページなどで紹介されている画像です。見開き2ページが写っており、該当部分を以下に活字にしました(太字)。源氏物語を全部読みたいと願っていた作者が、全五十余巻を手に入れることができたときの喜びなどを綴っている部分です。左ページの後ろから5行目に「源氏」の文字が見えます。
この画像の添え書きによれば、会期中に「頁替あり」とあります。「更級日記」というタイトルにつながった「月も出でで闇に暮れたる姨捨になにとて今宵訪ねきつらむ」の歌が記されているページを見たいものです。
観覧はインターネットでの予約が必要です。ただ、会期の3月が近づかないとできないようなので、ご注意ください。詳しくは三の丸尚蔵館のホームページをご覧ください。
https://pr-shozokan.nich.go.jp/miyabi/
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いとくちおしく思なげかるるに、 をばなる人のゐ中よりのぼりたる 所にわたいたれば、「いとうつくしう、 おいなりにけり」など、あはれがり、 めづらしがりて、かへるに、「なにをかたて まつらむ、まめまめしき物は、まさなか りなむ、ゆかしくし給なるものをた てまつらむ」とて、源氏の五十餘巻、ひつ にいりながら、ざい中将、とをぎみ、 せり河、しらら、あさうづなどいふ物 がたりども、ひとふくろとりいれて、えて かへる心地のうれしさぞいみじきや。
はしるはしる、わづかに見つつ、心もえず 心もとなく思源氏を、一の巻よりして、 人もまじらず、木ちゃうの内にう ちふしてひきいでつつ見る心地、き さきのくらひもなににかはせむ。ひるは ひぐらし、よるはめのさめたるかぎ り、火をちかくともして、これを見る よりほかの事なければ、をのづから などは、そらにおぼえうかぶを、いみ じきことに思に、夢にいときよげ なるそうの、きなる地のけさきたるが きて、「法華経五巻をとくならへ」と いふと見れど、人にもかたらず、なら はむとも思かけず、物がたりの事をのみ 心にしめて、われはこのごろわろき ぞかし、さかりにならば、かたちもかぎり なくよく、かみもいみじくながくな りなむ。ひかるの源氏のゆふがほ、 宇治の大将のうき舟の女ぎみのや うにこそあらめと思ける心、まづいと はかなくあさまし。五月ついたちごろ、 つまちかき花たちばなの、いとしろく ちりたるをながめて、 時ならずふる雪かとぞながめまし