信濃毎日新聞のデジタル版から「語る@信州」というコーナーへの寄稿依頼を受け、今年も展開する小中学校への「月の都出前授業」について書きました(4月3日付掲載)。このコーナーは各分野で活動している方々が登場するところで、読めるのはデジタル版(有料)だけですが、著作権は筆者にあることから、掲載1週間後は自前のサイトなどに出してもらっていいとのことです。年にあと数回、執筆のチャンスをもらっています。「語る@信州」はここをクリックしてください。(大谷善邦)
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平成の自治体大合併で、長野県の「更級郡」が消滅しました(2005年)。都人の大きなあこがれだった、月の美しい里「さらしな」の地名が地図から消えてしまうのが残念で、地名に寄せられた古人の思いを調べ、フリーペーパーを出すようになりました。「超一級のブランド地名」という指摘に賛同してくれる人がたくさんおり、2015年、経済や文化、教育での活用を目指す住民団体「さらしなルネサンス」を結成しました。
以来、地名の魅力の核心を紹介する冊子や、女の子がお父さんと一緒に美しいさらしなの景色を訪ね成長していく絵本などを作ってきましたが、若年層への浸透が課題でした。
そんなとき、メンバーに小中学校の教職を退職した方々が加わりました。この方々の経験と実行力で昨年、念願がかない地元千曲市の小中学校への出前授業を展開することができました。
前年、千曲市が「月の都千曲」として日本遺産に認定されました。「月の都」は会結成時からのスローガン「月の都・千年文化再発見の里づくり」で目指してきたものだったので、私たちは「子どもに届ける好機」ととらえました。
学校は忙しいと聞いています。それでも来てもらいたいと思ってもらえる授業はどういうものか-。メンバーで幾度も話し合いました。元教員の方から「映像や漫画に親しんでいる世代なので」との意見があり、パワーポイント(PP)を使うことを最初に決めました。そして、「月の都」の魅力の核心を、「千曲市が月の都である理由」「田毎の月って何?」「姨捨の棚田のできた理由」という3テーマで伝えることにしました。
内容を作るのは各テーマに精通したメンバー。制作途中のPPを持ち寄って意見を出し合い、各テーマ約30分のプログラムを開発。3つの小中学校で実施できました。
「月の都」である理由を知るには、全体像を見ることが重要です。グーグルアースから写真を切り出し、月の都となるときに重要な役割を果たした冠着山(姨捨山)、千曲川などの舞台装置、そして出前授業先の学校の位置も示すなどして、身近感を持ってもらえるようにしました。
「田毎の月」は水を張った田一枚一枚に映る浮世絵が有名ですが、本当に見られるのか、見られないとしたらなぜそんな浮世絵が描かれたのか。人間の心のメカニズムを、かわいいイラストを使って説明しました。国の重要文化的景観に選定されている姨捨の棚田は、大昔の地滑りでできました。写真だけでなく、これもかわいい図解を描いて紹介しました。棚田の一角にある巨大な姨岩(おばいわ)は、なぜそこにあるのか、分かってもらえたと思います。
子どもだけでなく、大人であっても抱く素朴な疑問に「そうだったのか」とすうっと入っていく授業を目指しました。「更級」の地名を今に伝える更級小学校では、全学年の子たちに「月の都」の魅力を話す機会を得ました。わたしたちの活動への期待の大きさも知ることができ、大変励みになりました。
昨年の前半はまだコロナ感染症の拡大局面だったこともあり、本当に授業の出前ができるか心配でしたが、2学期の初めに実施できたリモートでのオンライン授業をきっかけに、リアルでの出前授業もできるようになりました。こういうふうにすれば子どもの関心も高まるというテクニックの助言も元教員の方からあり、やってみると、その通り反応がよかったです。
ことしは英語の授業プログラムも開発。3テーマの内容もさらに磨きをかけ、授業に出かけます。
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「月の都」出前授業の3テーマについて、「答えが知りたい」と本欄の担当者から求められました。それはまた次回、解説したいと思います。
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〈おおたに・よしくに〉更級郡の消滅で「さらしな」の地名も消えるのを懸念、地名を地域づくりに生かす活動を続ける。元共同通信記者。出生地が「更級日記」題名の地(旧更級郡更級村)であることから、定年後は伝えたい思いがある人の作文を手伝う作文支援業を営む。著書に「白 さらしな発日本美意識考」など。